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天津神の高天ヶ原山

平成二十三年四月二十一日、晴天。

友人と二人で高知市大津の高天ヶ原山(たかまがはらやま・一〇七・〇㍍)に行く。点名は高天ガ原(たかまがはら)、選点は昭和三十二年と比較的新しい。この名前を聞けばどうしても行って見たくなるが、なぜか遅くなってしまった。



汐 見 台 団 地 か ら


詳 細 地 図


赤 旗 が 高 天 ヶ 原 山


詳 細 図

主 殿 と 西 ノ 峯 ( 案 内 板 よ り )


東 ノ 峯 ( 案 内 板 よ り )



高知市から東に国道一九五号線を電車線に沿って進み、領石通り電停から一車線を南に進む。周囲は住宅地で電柱に「たかまのはら稲荷神社」のお披露目広告が張られている。「高天原入口」の看板があり、ここの狭い急坂を上ると右に神社の大きい広場があり、ここに駐車。正面には拝殿、右には社務所のような建物がある。犬が二声吠えたと思うと、すぐ三十歳位で普段着の巫女さんが姿を現した。この犬は見事に訓練されており、その後一度も声を発することはなかった。来意を告げて拝殿入口で記帳を済ました。





高天原稲荷神社と云われるだけあって、全体に広大で建物、敷地、参道、献花、清掃などは見事に整備管理されており、塵一つ落ちていない爽快さである。

ところで、古事記序(石川淳訳)に以下の記述がある。

『はじめ混沌、その根元の気すでに凝って、発現のしるしはいまだ見えず、名もなく、うごきもない。このとき、たれかよくその形を知ろう。さて、天地ふたつに分れて、高天原(タカマノハラ)の三神、生成のはじめをなし、陰陽ここにひらけて、イザナギイザナミの二はしら、万物の祖となる。かのイザナギ、この国と黄泉(ヨミ)の国とに出入して、かえり来てミソギするに、目を洗えば日月あらわれ、身をそそげば神武うまる。宇宙のみなもとは冥(クラ)しといえども、神代よりの伝承に依って国をはらみ島をうめる時を知り、万物のはじめは遠しといえども、先賢の遺教にしたがって神をうみ人を成らしめた世をあきらかにする。げにも、神代のむかし、祭祀には鏡をかけ、誓約には玉を吐いて、神の子らぞくぞくと天にうまれ、アマテラス大神は剣を噛み、スサノヲはオロチを切って、もろもろの神神地にさかえた。また高天原の諸神(天津神)は安河にあっまって天が下を治めるはかりごとをさだめ、出雲の大国主はイナサの小浜にて国土を天神の子にゆずった。』(以下略)

以上のように高天原は諸神が集り住んだ神聖な処である。国土地理院が「高天ヶ原山」と名付けた由来は、この山頂の所在が「高知市大津字高天原甲一四七二番八」にあり、山名がこれに依るのは明らかである。





山頂では古来、星・日・月の神々を祭祀したと伝えられる。ここは昭和五十四年に高天原稲荷明神として開山したもので、伏見稲荷大社を迎えて表社とし、貞之三社に主祭神ともに祭祀するとともに稲荷神社と縁の深い弘法大師を脇斎し、他の古墳、霊神を始め境内数社を併設したという。この中には伊野町白蛇洞稲荷も招祭している。月例会は一日と二十一日、要祭は月一回、大祭は四月と十月。

なお、三社とは、日の神社、星の神社、月の神社のことで、天照大神を中央に左に八百万大神、右に若宮八幡大神を祭っている。

また、ここの古墳は六世紀~七世紀に築造され十基が遺されている。すべて円墳で横穴式石室があり、これらは市保護史跡に指定されている。この時代の高天ヶ原山は島で周囲は海だった。千年余り前の「土佐日記」の記述から明らかである。

高天原稲荷明神は、駐車場のある処を中心にして、高天ヶ原山の東峰と西峰に建造物や史蹟がある。よく整備された参道を道なりに緩やかな坂道を進んでいくと、諸々の神々や石像等が次々に立ち並んでいる。




空 海 像



 そのうちに右への道があってそこには古墳がある。




 もとに戻って、さらに進んでいくと参道は高天ヶ原山を右に見ながら回り込んで行く。やがて最後の貞之三社である。広い敷地の中には社殿が並び四方には高くない塀があり、所々に開き戸があるが、すべて内側から施錠されている。そういえば、これまで見てきた社殿はすべて厳重に施錠管理されていた。




 山頂への道はないが、寄り道をしてみた。四等三角点を中心にして直径二㍍位の円形の広場になっており、通常の頂上と違ったところはないように見える。すぐそばにツツジが咲いていた。眺望は全くきかない。変っているのは三角点の標柱で、上表面に円形で黄色の金属が象嵌されていたことである。これには「ucode」と書かれていたが、なにかの識別標識だろうかと思った。






駐車場に帰って、巫女さんと少し話しをした。その時、頂上の話をすると、この山は神聖な処で、山頂に足を踏み入れるのは神様を上からふみつけることになります、という意味の事をやんわりと云われた。やはりこの山の頂きをきわめることは禁制だったのである。思うに、われわれが老骨でとても山登りなどできそうもないと見て、先立っての注意をしなかったものであろう。罰当たりなことをしたと大いに恐縮し反省をした。よって頂上の写真は三角点の標柱以外は掲載を差し控える。

また、「この神社のことは近所でも知らない人がいるんですよ」とも云った。―――ふと、不届きにも京都の料亭を思いうかべた。入口は半間と狭いが、中に入ると驚くほど広く立派なのである。



 (参考) ucodeについて
 国土地理院は、二〇〇九年度の基準点現況業務で、都市部の約二万点の三角点にICタグを設置した。このICタグは世界でただ一つの当該基準点の場所情報コードを持ち、現地でICタグのucode情報を読み取るだけで約三㍍の精度で位置情報を取得できる仕組みである、とのことである。詳しくは、基準点体系分科会(Ⅳ)」を参照されたい。