平成十八年六月七日、晴時々曇り。
友人と二人で土佐山村、土佐町の「樫山峠」(かしやまとうげ、九五〇㍍)、「黒滝山」(くろたきやま、一〇五六㍍)、「三辻山」(みつじやま、一一〇八・一㍍)を目指す。三辻山へ登るにはいろいろなルートがあるが、今回は樫山峠から赤良木峠へ降りる「歩き」のルートを選んだ。
詳 細 登 山 地 図 |
八時五十五分、高知市を出発。北山の小坂峠を越えて、県道十六号線(高知本山線)を平石と高川から赤良木墜道の手前道横の野原に九時四十分着。「工石山青少年の家」はすぐ上にある。ここから徒歩で六分戻った所にある登山口(七八〇㍍)から十時に登山開始。
いきなり植林の道に入る。さすがに歴史を刻んだ峠道だけあって、よく踏み固められたており、貫禄を感じるのである。だが、次第に単調な植林の風景にうんざりして来る。十時十五分、最後の水場と書いた道標、大きい鉄製の塵篭、煙草吸殻入れのコンクリート土管がある処を過ぎた辺りから、なんとなく感じのよい道になってきた。
ここはほぼ四角い形をしたカヤの草原となっており、およそ二五〇㎡とかなり広い。土佐町相川と高知城下を繋ぐ人馬の峠だったが、ここに店屋もあったというのも頷けられるのである。この峠には、狸がしばしば出てきて人を騙したという。通常、狸は男、狐は女に化けるというので、女性はこの狸を大変恐れたという。ここには、今では記念すべきものが何も残っていないのに一抹の寂しさを覚えた。また昭和二十四年に学友数人と高知市から全行程を徒歩で工石山へ行ったとき、相川出身の二人の友人がこの峠を越えて登山口の土佐山村城集落で合流したことを思い出す。
この峠からの展望は非常によい。南西方面には今まで見たこともない山容の工石山が迫ってきており、その西側には子石鎚山が見える。
眼下には「ふるさと林道工石線」、直ぐ西には尾根伝いに恐ろしいような岩場があって、こちらに被さって来るような感じがする。
十時四十四分、峠から西に尾根筋を進む。ここから三辻山に至る尾根筋の逍遥が多彩ですばらしい。同五十九分、分岐があって「三辻山」、「工石山登山口」と書いた道標がある。われわれは「三辻山」への道を採り、町村界の稜線を西に進む。
少し南に入り、来た方向とは逆に狭い岩の道を東に進むと、同三十七分に見晴らしのよい岩場に来る。
正面には工石山が見える。同五十三分、山頂の石柱。
ここら付近には此処かしこでベニドウダンツツジが咲き乱れている。さらにどんどん進むと岩場の絶壁に辿りつく。東に展望が開けているが、これ以上は進むことはできない。
この付近にシャクナゲが数本あったが、ふと見ると、直径二㌢位のシャクナゲが朽ち果てた倒木の下敷きになってそれでも我慢強く生きていた。数年以上この状態で頑張ってきたものであろう。とっさに、この倒木を思い切りはね除けた。十二時十分分岐に戻る。この岩だらけの黒滝山周遊に四十三分を費消したのは道中が面白かったためである。
本道に立ち戻り、日当りのよい尾根道を直登するが、三分後には北側に回り込みトラバースの道を進む。ブナ林が現れ、シャクナゲの群落も見られるが、大体花は終わっている。多分二週間前位ならツツジも含めて盛りであったであろう。しかしまだ咲き残りの樹もあった。
ここらあたり一帯は清々しい深山の森の歩きである。十二時五十分、東屋風造りの休み場がある。これはいつ頃建てられたものであろうか?古びて埃っぽい感じで、テーブルはひび割れ、長椅子は脚が腐り落ちている。
そういえば、道中には所々に大きい鉄製の塵篭、煙草吸殻入れのコンクリート土管が置かれていたが、これらもその当時に設置されたものであろうか。十二時五十五分、ここを出発して山頂を目指す。
十三時丁度、三等三角点、風が涼しい。広くはないが全角の展望である。
しかし、この日の空は霞みがかかっており、近くの山々が見えるに過ぎない。西隣にはNHK・TV土佐送信所の二本のパラボラアンテナと付属の建物が指呼の間に見える(標高一一〇六㍍)。車が一台来ていて、人の姿も見える。大声で数回ヤッホーと叫んでみたが、丁度西風だったので聞こえたものか、手を振っているように見えたのは僻目か。ここから十五分で行くことができるが、時間の関係で諦めた。三辻山にすぐにでも登りたいのなら、この町道三辻線終点からのコースなら楽だ。
十三時三十七分下山開始。休み場からは往路を採らず、直ちに南をとって「工石山登山口」への道を降る。始めは雑木林でクマザサが混じる道だが、そのうちに案の定、植林ばかりの退屈な道中になる。登山口から樫山峠までの道よりかなり見劣りすると思う。
十四時十五分、道標があって、右方向は「工石山登山口」、左方向は「樫山分岐」、降ってきた道は「三辻山」と記されている。つまり樫山峠から西に十五分進んだ所にある分岐に通じているのである。同二十一分、ドロマイト(Dolomite、CaCO3とMgCO3の三方晶系の炭酸塩鉱物)採掘のための作業道跡に降り立ち、同三十五分、「工石山登山口」に着く。二人の中年女性に出会った。工石山に行っていたという。三辻山にはわれわれの外誰も登ったものはいなかったようである。降りは一時間弱の行程であった。歩数は全行程一万二二〇〇歩。
日本の山林の七割が植林されて、これは世界一といわれるが、この山もその例に洩れず、尾根道に出るまでは、植林ばかりである。通常、植林の道を登ると、付近は何も生えていないが、この山ではヤマアジサイが咲いている位で、道中の単純さには聊かうんざりしてくるのである。しかし樫山峠から山頂までの尾根筋は、一転して多彩な道中となる。峠の歴史的佇まいと展望、雑木林の多様さ、黒滝山を中心とする岩場と展望、ブナ、シャクナゲ等の原生林、三辻山山頂から見る広大な展望等は、隣の工石山に比べても決して見劣りするものではないと思う。