Mutter
編集

道なし直登の三角塔

 平成二十年二月十四日。晴天、朝寒いが、日中やや暖か。前日は雪が舞い、この冬で最も寒い一日。

 友人と二人で、中土佐町大野の「三角塔」(さんかくとう、三五五・二一㍍、二等三角点)を目指す。一名、「大峯川山」(おおみねかわやま)ともいうが、これは字名に由来する。この山には登山道はなく、勢い直登を強いられるが、その標高差は約二五〇㍍で、今まで登った山でも最もきつい登りになった。低山といえども侮るべからずである。東京の友人であるヒマラヤ山男がそう云っていた。




赤 点 が 登 山 口  赤 線 は ル ー ト


詳 細 登 山 地 図


中 央 赤 旗 が 三 角 塔



 この日、八時四十九分に高知市を出発。高速道に入り、須崎東ICに九時三十五分着(三九・五㌔)、国道五六号線に入り、ひたすら西に走る。JR安和駅を左に見ながら進んでいくと、やがて焼坂トンネルに入る。ここをくぐり抜けると、直ぐ左に登山口が見え、少し進んだ薄暗く陰気な広場に駐車する(標高一〇〇㍍)。幹線道路だから引っ切り無しに車が走っている。九時五十分、一時間一分(五〇・二㌔)を要した。ここには公衆電話ボックスと消火栓がある。事故に備えたものであろう。これは焼坂トンネルという如何にも物騒な名称に縁起を担いだためか? 



駐 車 地


登 山 口


準備を整え、十時三分に登山開始。登山口は車が入る位広いが、直ぐに小道になり、水のない谷に沿ってその右側を進んでいくと、猪用捕獲檻があって中には魚の臓物が投げ入れられている。鼻がひん曲がるほどの悪臭で、これではさしもの猪も尻尾を巻いて遁走するだろうと思った。猪は極めて用心深く、捕獲檻に気を許すのに二三ヶ月を要するというほどのものである。

同十三分、自然林の中の道がなくなった。

左の谷を跨いだ向うは檜の植林地になっており、そちらの方が登り易いように見えるので、谷を渡り支尾根の道を探す。あちこちに微かな踏み跡が見えるが、いずれも途中で消えているので、道の探査を諦めて、直登することにする。これらの迷い道は多分樵道か獣道であろう。



ここの植林は見るからに貧相で、そこには小潅木がまだらに生えている。標高差約二五〇㍍弱の直登だが、掴まる木が少ないので、急傾斜地を這うように手当たり次第に根っこ等を探しながら一歩一歩攀じ登る。しかし足が滑り、落下し易い岩石に気を使う。大きい浮石を蹴飛ばしたのでいきなり落ちていったが、落下音はいつまでも響いていた。後棒と思わず顔を見合わせた。下を見ると恐ろしい程の傾斜なので余り見ないようにする。





 上空の透けた方向を目指しているが、なかなか近づかないので、いらいらしてきて必死の形相になる。この様子を横で見ている者がいたとしたら、「なんでそんな苦労をしてまで登るのか?」と訝しがるだろうと思う。

十一時五十二分、ようやく尾根筋に飛び上がった(三三五㍍、以下ここを「尾根分岐」という)。なんとこの直登に一時間三十七分を要した。標高差二三五㍍の直登で、今まで登った山の中でも最も厳しかった「次郎太森」を凌いでいるのではないかと思った。「東三森山」もきつかったが、道はしっかりしていた。 



尾 根 道



ここからは、比較的はっきりした尾根道を東に進む。北は植林、南は自然林で下草は主にウラジロである。これが曲者だが今回は大人しかった。十二時丁度、急降下して登り返すと山頂らしい所へ来た。三角点はウラジロの茂みに深く隠蔽されていたが、遂に友人がこれを見つけた。ここ数年、人が入った形跡がないように思われた。十二時十分、登り始めて二時間七分、尾根分岐から十八分を要した。

早速、周囲の清掃に入る。友人は鎌、小生は携帯用鋸を持参している。

付近は栗、樫、椿等が多い自然林で、南に行くと深いウラジロの茂みから久礼湾がチラチラ望見される。付近を歩いて見て判ったことだが、この山は山頂を中心にして緩やかな傾斜が全角の方向にやさしく垂れ下がっており、付近は三角塔という山名のように頭を水平に切った円錐のような山容をしているのである。東に尾根道が見えるが、これは「水谷山」(三一五㍍)に通じているものと思われる。




 十三時三十六分、下山開始。同四十七分に尾根分岐へ来た。十一分を要した。ここからさらに西に道が見えるので歩いて見たが、同五十五分、道がなくなったので引き返す。ここから支尾根を頼りに闇雲に下降したい欲望に駆られたが踏み止まる。この時間でさらなる冒険が危険であることは、経験による勘。言い換えると、年による臆病か?




十四時八分、尾根分岐から直登ルートを下降する。途中、再び二〇㌔位の大石を落下させて肝を冷やかしたが、この付近には浮石が多く危ない。もともと道はないので、二人の下り筋を並行に変える。同五十六分、直降下が終り、左に谷が見える所へ来た。谷を渡り猪用捕獲檻の横を十五時十分に通過、同二十三分に駐車地に着いた。山頂から一時間二十六分、尾根分岐から一時間十五分を要した。

 十五時三十七分、駐車地を出発。十六時三十分、須崎東IC、十七時丁度に高知ICを通過した。