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蔦蔓が絡まる根木谷山

 平成十九年十二月十六日。快晴、見晴らしよし。朝は冷えるが日中は風なくやや暖かい。

 友人と二人で、春野町弘岡下の根木谷集落北に鎮座する根木谷山(ねぎだにやま、二四五・八㍍、四等三角点)を目指す。地元では、その山容から「マンモス」と呼んでいるという。根木谷という名称は、秋から冬にかけて赤い実をつけるコガネキ(方言名)の本部の煎液で目を洗うと充血や眼病に効目があるので目木と当て字された事に由来するという。





戸 波 山 か ら


詳 細 登 山 地 図


中 央 赤 旗 が 根 木 谷 山



またこの山は、西方にある吉良ケ峰、大平峰と同じく、都市近郊の集落の上にあるにも拘らず、これもどういうものか道がない上に大荒れの山で中々に梃子摺り、山頂では思い掛けもない椿事にも遭遇したのである。


この日、八時二十五分、高知市を出発。国道五六号線を西に進み、新荒倉トンネルを過ぎて直ぐ釘抜地区で左折し、県道三六号線に入ると左方に目指す根木谷山が見える。ここからさらに一・五㌔位進むと、「東ネギ谷口」のバス停留所があり、ここを左折して町道を北に六〇〇㍍進んだ終点で駐車。九時五分、四十分を要した。ここに民家があって駐車の許可を貰う。

「この山に人が登ったという話は絶えて聞いたことがなく、かなり荒れているのではないか。昔、子供が高知市の花火大会を見るために頂上まで登ったのを記憶している」と言っていた。



登 山 口



九時十五分、登山開始。舗装はすぐなくなるが、なお続く広い車道もやがて荒れた小道になる。同二十二分、一面の孟宗竹の密集地に入るが、左は谷である。同二十六分、左が竹林、右が植林の境を登っていく。同四十六分、岩場に突き当ったので、これを右に巻き北東に透けて見える支尾根筋を目指して進むが、もはや道はなくなっている。ここら辺りは前面が蜘蛛の巣のように蔦蔓が絡まり進退が困難になる。捌き潜り抜けながら輪抜けのような状態で徐々に分け入っていく。殆んど歩行困難な状況で思わず互いに顔を見合わせ苦笑する。




前途多難を思わせるが、辛抱強くそれこそ一歩一歩北東に進んでいく。いろいろな薮漕ぎを経験したが、この蔦蔓の輪抜けは始めてである。やがて十時五分、南北に走る支尾根に飛び上がる。



支 尾 根 に と び 上 が る


尾 根 筋



ここから北西の方向に尾根筋を進む。左は樫、椿等の照葉樹林、右は杉の植林となっており、比較的歩き易いが傾斜はきつい。

上空が透けて見えて来、なにも見なくなったと思うと、いきなり山頂だった。十時四十分、登り始めて一時間二十五分を要した。山頂の三角点付近は東西五㍍、南北三㍍位の矩形の広場になっており、周囲はナラ、クスノキ、タラ等の幼木、東には竹の群落があり、展望は全く利かないが、上空は開けて明るい。直ちに付近の清掃に入るが、数年この方人が入った形跡がないと思われるほど荒れていた。




昼飯を済ましてしばらくすると、突然、犬の吠える声が聞えた。下の集落から聞えてくるのかと思っていると、いきなり前方を西から東に首輪を付けた濃茶色の大犬が吠えながら走り抜けた。犬種は判らない。私共の方でなく真っ直ぐ前方を見詰めながら必死の形相で突っ走ったのである。唖然としてこれを眺めたが、鉄砲打が入っているのではないかと話し合った。そういえば、この山は至る所で猪が掘り返しているのが目に付くのである。ところが、しばらくして同じ方向に今度はピーグル種と思われる猟犬が鈴を鳴らしながら走り去った。この犬も私共には目もくれなかったが、終始無言であった。

十二時二十五分、下山開始。帰路はあの蔦蔓の籔漕ぎを避けて往路を採らず、山頂を西に尾根を進み、次いで南に連なる支尾根を降下することにした。勿論、道はない。この尾根筋は左が自然林、右が植林になっているので、その境を下りてゆく。山頂付近から例のピーグル犬が何を思ってか、私共の前になり後になってついて来始めた。





臭いを嗅ぎながら急に姿を消したかと思うと突然現れたり、その動作は極めて敏捷で平地を走るようである。ただのひと言も声を出さないのが何となく不気味。もう一匹の犬は依然姿を現さない。二匹の犬が単独でこんな山の山頂まで自己の意思で登ってくる筈はない、付近には鉄砲打が必ず居るはずで、猪に間違われるのは迷惑だと、私共は時々大声を上げた。しかしいつの間にか姿が見えなくなった。ここの尾根筋にはさすがに蔦蔓はなかったが、急斜面の連続で崩れ易い土質のためよく滑落した。場所によっては腰を下ろして滑走した。





車 道 の な れ の 果 て



十二時三十三分、小さなコブを通り、同四十八分に竹林に突入する。左方に自然林が見える。同五十一分、周囲は雑木と竹で植林はなくなった。十三時十五分、竹林を突き切って降下すると、いきなり荒れた車道に降り立った。昔はここまで車が来ていたものと見えて、轍の跡があり、大型の廃棄物が散乱している。同二十七分、急に明るい果樹園に来た。ここから舗装された道路になり、やがて集落が見えて来たが、ここは西根木谷といわれる所である。同四十九分、県道三六号線に出た。ここに「ネギ谷口」のバス停留所がある。ここから東に歩いて行くと元来た「東ネギ谷口」のバス停留所で、ここで左折して北に進んで行くと、十四時丁度、駐車地に着く。頂上から一時間三十五分を要した。日曜日だったせいか朝逢った登り口の民家の人がいて、私共が反対方向から帰って来たので、「あれ!どちらから?」と驚いたような声を出した。山を一回りして来たルートを説明した。犬の話をすると、時々山の上の方で吠える声が聞えるので鉄砲打が入っているのではないかと言っていた。蔦蔓の薮の話では、あそこは大変な所で人は絶えて通ったことがないだろうという事だった。一度ボランチアで刈り払いをしてはどうかと提案しておいた。

この山も都市近郊にありながら人跡未踏の道亡き荒れ山だった。都市近郊だから余計に忘れられた山になるだろうと思った。

蛇足ながら、蔦蔓の籔漕ぎを経験したい方に推薦する山でもある。