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土佐最奥地の山中家住宅

 高知県土佐郡本川村の越裏門(えりもん)、寺川や池川町の椿山(つばやま)等は、土佐でも最奥地の山郷であり、古き良き山村への郷愁を感じさせてくれる数少ないところ。平成十八年八月、機会あって越裏門の山中家を訪れた。
 以下は、冊子「山中家住宅」等を参考にして記述したものである。


全 体 地 図 

本 川 村 概 念 図

「山中家住宅」がある越裏門は、石鎚山系の東側、徳島県に流れる吉野川の最上流部にある。標高約八百㍍、「四国のチベット」とも云われる山深い寒村で、林業を中心とする民家三十戸が山あいに点在する。嘗ては、焼畑でヒエ、キビなどが耕作されていた。

この住宅は、同家に残る位牌の最古のものが明和六年(一七六九)であることなどから、江戸時代の中頃に建築されたと推定される。県下最古の茅葺き寄せ棟造りの民間住宅といわれる。 


復元された山中家住宅、昭和五十一年(一九七六)


 建物は山辺の南斜面に建っており、背後に防風林を配し、排水もよい。高造りの屋敷構えは日当りがよく、立地条件は全体に良好である。 



住 宅 平 面 図 


「 ち ゃ の ま 」 か ら 各 部 屋 を 見 る。
 左 は 「 お お で 」 、 右 は 「 ま え お お で 」 と 呼 ば れ る


建物は当地の特殊事情(注一)を考慮に入れて、平野部の民家に見られる「土間」部分に替わる床板張りの「よま」(注二)が設けられている。総体に広く、多くの間取り(六室)になっているのは物置(農作物の取入れ)を兼ね合せたためと思われる。 

「 よ ま の お く 」。
特 徴 の あ る 天 井 付 近 の 構 造、構架

「 よ ま 」 の 天 井 の 構 造


また炊事場を母屋内に設けないのも、谷間の自然水を利用し屋外に洗場を設ける山間部独特の習しである。 

 軸部材は総体に木割が太く、上質材を大様に使用し、足固めに柱を貫通する腰組、差物や梁上中央に架け渡されている平角断面の大梁の中重(なかじ・注三)等の構架、工法は土佐の古民家特有のものである。 
 建物は建築されてから柱間装置、軸組の一部その他にも部分的な改造、改変がなされており、西側面に炊事場、物入れ等を下屋として建て増しされていたが、全体としては建築当初の状態を留めていた。 


昭和四十一年から文化庁が民家緊急調査を実施し、高知県では昭和四十五年から県全域で古民家の実態調査が行われた。山中家住宅は県下で最も古く特色ある山間民家として昭和四十七年五月十五日付けで国重要文化財に指定されたものである。 



「 お お で 」 、平 成 十 八 年 八 月 撮 影



 修理には建物を一旦解体して組み直した。修理に伴う調査によって改変した所等を痕跡、資料によってほぼ明らかにできたので、昭和五十一年(一九七六)、当初の姿に復元したものである。


(注一)    この地は厳寒で、急斜面ばかりで平坦地がなく、ヒエ、キビ等を主体に耕作していたので、平野部のそれと収穫物とその状態に差異があり、屋外、屋内での作業にも違いが認められる。


        (注二) 「余の間」を「よま」と云う様になったもので、居室外、余分の間を意味している。一般民家の土間部分に替わる作業場(夜なべする)とされたもので、この地方の古い民家は殆ど「よま」を構えていたと云われる。


 (注三)    材は「中量」とか「中地」と呼ばれ、一般に知られる牛梁に替わる断面平角に加工された梁上中央に架渡し桁行の連結を計る部材で、当地方特有のものである。
 (平成十八年八月記)